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横浜地方裁判所 昭和53年(行ウ)4号 判決 1982年2月24日

原告 江川真一 外一三名

被告 神奈川県知事

参加人 横浜市長

主文

原告らの本件訴をいずれも却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告ら

1  主位的請求

被告が昭和五二年一二月二日付神奈川県告示第八三五号で告示した横浜国際港都建設計画市街地再開発事業(横浜駅西口第一種市街地再開発事業)に関する都市計画の決定は、無効であることを確認する。

2  予備的請求

被告が昭和五二年一二月二日付神奈川県告示第八三五号で告示した横浜国際港都建設計画市街地再開発事業(横浜駅西口第一種市街地再開発事業)に関する都市計画の決定を取消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

1  (本案前の申立)

主文同旨。

2  (本案の答弁)

(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件決定の存在とその概要

(一) 被告は、横浜国際港都建設計画市街地再開発事業(横浜駅西口第一種市街地再開発事業、以下「本件事業」という。)に関する都市計画の決定(以下「本件決定」という。)を行い、昭和五二年一二月二日付神奈川県告示第八三五号で告示した。

(二) 本件事業に関する都市計画の概要は、別紙「横浜国際港都建設計画市街地再開発事業の決定」並びに添附計画図表示のとおり、横浜市西区南幸町一丁目の一部(国鉄横浜駅西口付近、添附計画図イ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次直線で結んだ範囲内の約一・一ヘクタールの区域)を対象として、都市再開発法(以下「再開発法」という。)に基づく第一種市街地再開発事業を施行するというもので、公共施設の配置及び規模、建築物の整備並びに建築敷地の整備に関する計画の内容は、右別紙決定書の各該当欄記載のとおりである。

2  原告らの立場

原告らは、いずれも本件事業の施行区域内に土地を所有し又は借地権を有する者である。すなわち、

(一) 原告江川真一は、横浜市西区南幸町一丁目一三番地五号、同番地七号及び同番地一一号の三筆の土地について借地権を有する。

(二) 同惠明興産株式会社は、同番地七号の土地を所有している。

(三) 同東明実業株式会社は、同番地一一号の土地を所有している。

(四) 同富士繊維株式会社は、同番地五号の土地を所有している。

(五) 同松本光洲こと許燦は、同番地一二号の土地を所有し、かつ、同番地一号の土地について借地権を有する。

(六) 同株式会社ニユースターは、同番地一号の土地について借地権を有する。

(七) 同須賀泰一、同永川泰仁及び同菊地不美子は、同番地九号及び一〇号の二筆の土地を共有している。

(八) 同須賀商事株式会社は、同番地九号及び一〇号の二筆の土地について借地権を有する。

(九) 同中村信雄は、同番地一号の土地を所有している。

(一〇) 同株式会社播磨屋は、同番地一号の土地について借地権を有する。

(一一) 同中山正之は、同番地一一号の土地を所有している。

(一二) 同有限会社中山商店は、同番地一二号の土地を所有し、かつ、同番地一一号の土地について借地権を有する。

3  本件決定の処分性

本件決定は、抗告訴訟の対象となる処分に該当する。その理由は以下のとおりである。

(一) 抗告訴訟の対象となる処分とは、行政庁がその意思活動として行う行為で、個人の法律上の地位ないし権利関係に何らかの影響を与える性質のものであれば足り、特定人の特定の権利を直接侵害し、又はこれに具体的な義務を課するいわゆる固有の意味での行政行為に限定する必要はない。

(二) 本件決定は、一般的、抽象的なものではなく、施行区域内の土地建物の所有者、借地権者等の権利に対し具体的な制限を加えるものであるから、抗告訴訟の対象となる処分に該当する。すなわち、市街地再開発事業に関する都市計画決定が告示されることにより、施行区域内では建築物の建築について一定の規制が行われる(都市計画法(以下「都計法」という。)五三条)が、このような規制を受けるのは施行区域内の権利者という特定多数人であり、かつ、その権利制限は具体的である。右の建築規制をもつて、決定ないし告示自体の効果ではなく、都計法が都市計画決定に対し特に付与した付随的、抽象的効果にすぎないとの見解もあるが、法律が特に付与した付随的効果と決定ないし告示自体の効果とは明確に区別できないのであるから右の見解は妥当でない。

(三) 本件決定が施行区域内の土地建物の所有者等の権利に対し具体的な制限を加えるものであることは、次の事実からも認めることができる。すなわち、横浜市は、既に本件決定以前から、行政指導により原告らの建築確認申請を断念させているのであつて、右の経緯に照らせば、本件決定は一般的、抽象的なものではなく、原告らの利益を具体的かつ現実に制限しているものであり、処分に該当することは明らかである。

(四) 本件決定は、市街地再開発事業の一連の手続の一環をなすもので、このように一連の手続を構成する行政庁の行為においてどの段階で行政訴訟として争わせるべきかについては、特定の個人に向けられた具体的な処分がなされる段階で初めて不服申立を認めれば足りるとの見解もあるが、当事者の主張や求めている救済の内容などによつては早い段階で争わせることが必要な場合もあり、右見解は正しくない。本件のように都市計画自体の違法が争点となる事案であれば、その告示の時に既に訴訟的解決にふさわしく成熟しているというべきであるし、都市再開発事業はたとえば土地区画整理事業に比較すると、事業期間は短期であり、かつ、計画変更も小規模であるのが通常であるから、段階的手続をふむものではあつても既に計画の段階で事件として成熟しているというべきである。

また、都市計画決定に伴う建築規制により施行区域内の建築物の建築について都計法五三条一項の許可申請に対する不許可処分がされた場合に右建築規制による権利侵害を主張して、その不許可処分の取消しを求めれば足りるという見解もあるが、これは、たとい建築確認申請をしても不許可になることが明白であるのに、なおかつ多額な費用を支出して設計図書を準備し(建築物が大規模になればなるほど設計図書は莫大な数量となり、その費用も多額となる。)形式的に確認申請、不許可処分という手続をふまねば都市計画決定による権利侵害について訴訟による救済を求めることができないというにほかならず、このような見解が国民に無用の負担を強いるものとして許されるはずがない。

(五) 後記のように本件決定による市街地再開発事業の実現は不可能であるところ、本件決定に処分性がなく、これに対する抗告訴訟が許されないとすると、実現不可能な都市計画による不必要な建築規制が無制限に継続していくことになり、施行地区の権利者の保護に著しく欠けることが明らかであるから、本件決定に処分性を認めるべきは当然である。

4  無効原因(主位的請求原因)

(一) 本件決定は、第一にその内容である再開発法が憲法に違反していることにより、第二に仮に再開発法全体が違憲ではないとしても、本件決定の前提である同法三条が憲法に違反していることにより、第三に仮に再開発法三条自体が違憲ではないとしても、本件に同条を適用する限度で同条が憲法に違反することにより、いずれにしても法律構成上実現不能な行政行為であるから無効である。すなわち、

(1) 市街地再開発組合(以下「組合」という。)が施行する第一種市街地再開発事業(本件はこの場合にあたる。)においては、組合の設立発起人は五人以上あれば足り(再開発法一一条一項)、事業計画に対する施行区域内の宅地の所有者・借地権者の同意は人数上及び宅地又は借地の面積上三分の二以上の同意があれば足りる(同法一四条)とされている。しかしながら、そもそも市街地再開発事業は公共事業であり(同法一条)、何ら公共的性格を有しない私的団体である組合が施行者となりうるということ自体合理性がないのであるから、組合施行の場合には、関係権利者の権利、意思は最大限尊重されなければならないにもかかわらず、再開発法は前記のとおり施行区域内の土地所有者と借地権者(借家権者はまつたく考慮されていない。)の三分の二の同意があれば再開発事業を行いうるとしているのであつて、反対権利者の権利、意思の保護に著しく欠けるところがある。また、地方公共団体が施行者の場合には、施行区域内の権利者全員が反対しても再開発事業を強行しうる制度となつており、地域住民の意思と権利を尊重し、手続を民主的に担保する保障が何ら存しない。

以上述べたところからすれば、再開発法は憲法二九条(ことに三項)及び三一条に違反するといわなければならない。

更に、再開発法の定める権利変換手続については、いわゆる照応の原則が規定されてはいるものの、土地区画整理における平面換地の場合とは異なり、その具体的適用の基準は不明確というほかはなく、再開発法の定める補償の規定は不備といわざるをえない。

(2) 再開発法の採用している権利変換の手法は、権利変換の前後において権利の性格に同一性がなく、等価交換を基本原則としているなどの点で換地処分よりも更に強制力が強く、より収用の手法に近いというべきである。したがつて、再開発事業にはこのような高度の強制力を有する権利変換の手法を使用することを正当化するに足りる高度な公共性が要請されているというべきである。ところが、再開発法三条の定める要件は、権利変換の手法を使用することを正当化するに足りる高度の公共性の要請を充たしているとはいえないのであつて、この点において同条は憲法二九条、三一条に違反しているというべきである。

(3) 仮に、再開発法三条自体が違憲ではないとしても、本件事業は公共性に乏しいのであるから、本件事業に同条を適用する限度で、同条は憲法二九条、三一条に違反しているといわなければならない。

(二) 本件決定は、その内容の実現が事実上不能の行政行為であるから無効である。すなわち、本件事業は組合施行であるから組合が設立されなければまつたく事業を進行させることができないが、本件においては、反対者多数のために組合の設立は不可能である。したがつて、本件決定は、その内容の実現が不能であることが明白であるというべきである。なお、本件においては、組合が設立されていないのであるから、設立を当然の前提とする事業代行の制度(再開発法一一二条以下)の適用もありえないことを付言する。

(三) 本件決定は、それに至る手続に以下に述べるような重大かつ明白な瑕疵があるから無効である。

(1) 組合が施行者となる再開発事業にあつては、再開発事業に関する都市計画決定前に、最終的な計画ではないにしても、それに近い程度の事業計画が明確にされ、それについて施行区域内の権利者のほぼ全員の同意が得られていることが必要というべきである。このことは、第一に、再開発事業が土地区画整理事業などの他の事業と異なり、事業が挫折したときに原状に回復することが著しく困難であり、経済的にも回復不能な損失を権利者が被るおそれがあるため、事業が万が一にも挫折することのないよう都市計画決定の段階で、組合設立の認可、事業計画の承認などが得られる見通しが立つていることが要求されること、第二に、行政行為の内容が実現不能の場合、その行政行為は無効と解されるところ、組合設立の認可を受けられる見通しがないにもかかわらずなされた都市計画決定は、その内容である再開発事業の実現が事実上不可能であるから、無効な行政行為といわなければならないことに徴すれば自明のことである。ちなみに、市街地再開発事業の都市計画決定をなすに当つては、現実にも、施行区域内の権利者のほぼ全員の同意を得る運用がされているのである。

(2) しかしながら、本件についてこれをみると、まず、原告らは、本件決定がなされるまで再開発法による再開発事業が行われるということ自体まつたく知らず、再開発法による再開発事業の何たるかすら説明を受けていなかつたのである。そして、再開発法一四条は、組合の設立の認可を申請する者は、(ア) 施行地区となるべき区域内の宅地について所有権を有するすべての者の三分の二以上の同意、(イ) その区域内の宅地について借地権を有するすべての者の三分の二以上の同意及び(ウ) 同意した者が所有するその区域内の宅地の地積と同意した者のその区域内の借地の地積との合計が、その区域内の宅地の総地積と借地の総地積との合計の三分の二以上であることの各要件を充たしていなければならない旨規定しているところ、本件においては、本件決定がなされる前の段階で右の三要件のいずれも充足されておらず、組合設立の認可を受けられる見通しはまつたくなかつたのである。

本件決定には、それに至る手続において右のような瑕疵があり、この瑕疵は重大かつ明白であるから本件決定は無効といわざるをえない。

(3) また、都市計画決定に至る手続として都計法の定める公聴会の開催や計画案の縦覧等の手続(同法一六条、一七条)は、都市計画が住民に対し広範な権利規制をもたらすものであることを考えると極めて不十分な手続であり、憲法二九条、三一条の要請を充たしていないというべきである。したがつて、被告において、右の都計法の定める手続を履践したとしても、同法の定める手続は右のとおり憲法二九条、三一条に違反するものであるから、結局、本件決定には、それに至る手続に重大かつ明白な瑕疵があり、無効といわざるをえない。

5  取消原因(予備的請求原因)

(一) 本件事業の施行区域は、以下に述べるように再開発法三条三号又は四号のいずれにも該当しない区域であるから、右の各号に該当するとしてなされた本件決定は違法である。すなわち、本件事業の施行区域内の土地の利用状況は決して不健全ではなく、都市としての機能も支障なく、産業人口等の集中に阻害されてもおらず、したがつて高層ビルに建て替える必要はなく、高層ビルに建て替えることによつて都市機能の更新に著しく貢献することもないのである。

(二) 本件決定は、前記4(三)に述べたとおり、それに至る手続に重大かつ明白な瑕疵があるから無効というべきであるが、仮に無効でないとしても違法であるから、取り消さるべきである。

6  よつて、原告らは、主位的に本件決定が無効であることの確認を、予備的に本件決定の取消しを求める。

二  本案前の申立の理由(被告及び参加人)

1  本件決定は、一般的、抽象的なものであつて、その施行区域内の土地建物の所有者等の権利に対し具体的な変動を及ぼすものではないから、抗告訴訟の対象となる処分には該当しない。すなわち、市街地再開発事業に関する都市計画決定は、市街地再開発事業の一連の手続の一環をなすものであつて独立した行為ではなく、都計法及び再開発法に基づき、その種類、名称、施行区域、公共施設の配置・規模、建築物及び建築敷地の整備等について定める高度な行政的、技術的裁量による一般的、抽象的な決定であり、直接、特定の個人に向けられた具体的な処分ではなく、その施行区域内の土地建物の所有者等の権利に対し具体的な変動を及ぼすものではない。

また、都市計画決定の告示があると施行区域内では一定の建築の規制がされることになるが、これは決定ないし告示自体の効果ではなく、都計法が都市計画決定に対し特に付与した附随的、抽象的効果にすぎないのであるから、右の規制があるからといつて都市計画決定がその施行区域内の土地建物の所有者等の権利に対し具体的な変動を及ぼすものということはできない。

2  右のように解したとしても、施行区域内の建築物の建築について都計法五三条一項の許可申請に対する不許可処分がなされた場合には、その不許可処分について、関係者は具体的な権利侵害の有無を争うことができるから、この段階で初めて訴の提起を認めても、何ら権利者の救済に欠けるところはない。

のみならず、仮に都市計画決定を抗告訴訟の対象となる処分と解するときは、施行区域内の利害関係人において、いかなる具体的権利の侵害が生じたか確知しえないまま出訴期間が経過し、その後に具体的処分を受けた段階ではもはや都市計画決定に関する瑕疵を主張しえなくなるという権利救済にかえつて不都合な結論となる。

三  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2(一)及び(六)の事実は知らない。その余の事実は認める。

3  無効原因(主位的請求原因)について

(一) 本件決定が法律構成上実現不能の行政行為であるから無効であるとの原告らの主張は争う。

(1) 原告らは、本件決定はその内容である再開発法が違憲であることにより、法律構成上実現不能の行政行為であると主張するが、争う。本件決定は、都計法一八条に基づき被告が行つたもので再開発法に基づくものではないのであるから、仮に再開発法が違憲であるとしても、そのことから直ちに本件決定の無効が帰結される筋合のものではない。

原告らは、再開発事業において、組合が施行者の場合には反対権利者の権利、意思の保護に著しく欠けるところがあることを、地方公共団体が施行者の場合には地域住民の意思と権利を尊重し、手続を民主的に担保する保障が何ら存しないことを、それぞれ再開発法が違憲であることの論拠として主張するが、争う。設立発起人の人数の如きは組合を設立するにあたり一応相当とされる人数を定めたものにすぎず、設立認可申請にあたり必要とされる関係権利者の同意が三分の二で足りるとする点は、通常は過半数をもつて足りるとすべきところを事業の重要性にかんがみ三分の二以上の同意を必要としているものであるから、関係権利者の利益保護に欠けるところはないというべきである。また、何ら公共性のない組合が施行者になりうる制度は不合理であるというが、要は施行者如何ではなく再開発事業自体に公共性が認められれば足りるのである。更に、地方公共団体が施行者の場合も、高度な手続的制約のもとにあるのであるから、関係権利者の権利保護に欠けるところはない。

(2) 原告らは、本件決定はその前提である再開発法三条が違憲であることにより、法律構成上実現不能の行政行為であると主張するが、争う。すなわち、都市環境のようにそれに対する評価について価値の錯綜する対象に対し法的規制を加える場合の公共性については、第一次的に立法府の判断に委ねられており、立法府がその裁量の限界を超え法的規制が著しく不合理であることの明白な場合に限り違憲とすべきものであるところ、再開発法三条は、都市計画上特に土地の高度利用を図る必要のある枢要な地区であつて、その土地の高度利用を図ることが産業人口等の過度集中により阻害されている当該都市の機能の回復に貢献すると認められる公共性の強い地区であることを要件としているものであり、公共性の要件として十分な合理性があるものであるから、同条を違憲とする原告らの主張は失当である。

(3) 原告らは、仮に再開発法三条自体が違憲ではないとしても、本件事業に同条を適用する限度で同条は違憲であると主張するが、争う。

(二) 本件決定が事実上実現不能の行政行為であるとの原告らの主張は争う。第一種市街地再開発事業の都市計画決定は、その後の事業の実施計画である事業計画の基礎的、根本的指針を定めたものであり、施行主体が定まらなければ決定しえない内容ではなく、また施行主体の違いによつて内容が左右されるものでもない。したがつて、都市計画決定案の地元説明会或いは都市計画地方審議会において組合による施行が予定されている旨の説明があつたとしても、それは施行主体の決定を拘束するものではなく、地方公共団体による施行も可能なのであるから、本件事業が組合施行であることを前提とし、組合の設立が不可能であるから本件決定は無効であるとの原告らの主張は、その前提において誤つており失当である。

(三) 本件決定にはそれに至る手続に重大かつ明白な瑕疵があるから無効であるとの原告らの主張は争う。

(1) 原告らは、組合が施行者となる再開発事業では、都市計画決定前に最終的計画に近い程度の事業計画が明確にされ、それについて施行区域内の権利者のほぼ全員の同意が得られていることが必要である旨主張するが、争う。再開発事業の都市計画決定は、事業の枠組を定めるものであつて、都市計画決定の段階では関係権利者の同意が前提となるものではなく、都計法にも同意を必要とする旨の規定はないのであるから、原告らの右の主張は失当である。

(2) 請求原因4(三)(2)のうち、原告らが本件決定がなされるまで再開発法による再開発事業が行われるということ自体まつたく知らなかつたとの事実は否認し、組合設立認可申請にあたり必要とされる土地所有者の三分の二以上の同意がないことは認める。ただし、本件においては、昭和五二年一一月七日に開催された神奈川県都市計画地方審議会の前までは、再開発法一四条の定める三要件をいずれも充たしていたのであるが、その後原告らの一部の者の翻意のために右に述べたとおり土地所有者についての要件のみが充たされないこととなつたのである。

(3) 原告らは、その主張する手続上の瑕疵を重大かつ明白と主張するが、争う。仮に原告らの主張する何らかの瑕疵があつたとしても、それは手続運用上の瑕疵にとどまり、手続自体の瑕疵とはいえず、単なる妥当性の問題に帰されるべき性質のものであるから、これをもつて重大かつ明白な瑕疵ということができないことはいうまでもない。

(4) 原告らは、都市計画決定に至る手続として都計法の定める手続は憲法二九条、三一条に違反すると主張するが、争う。都市計画決定において事前手続が要求されるのは、当該決定が対象となる都市における都市計画として適当かどうかの点について関係住民の意向を十分に反映させようとするためであるところ、都計法の定める関係住民への説明会、公聴会等の開催、都市計画決定をなす旨の公告、都市計画案の縦覧、意見書の受理等(同法一六条、一七条)は、右に述べた目的のため必要にして十分な手続であるということができる。

4  取消原因(予備的請求原因)について

本件決定は、以下に述べるとおり都計法及び再開発法に基づいてなされたものであり適法である。

(一) 都市計画において定めるべき第一種市街地再開発事業の施行区域は、「市街化区域内において、一体的に開発し、又は整備する必要がある土地の区域」(都計法一三条一項五号)で、具体的には再開発法三条一号ないし四号に規定する要件を充たす区域とされる。すなわち、第一に高度利用地区内にあること(一号)、第二に当該区域内にある耐火建築物で地階を除く階数が三以上であるもの(政令で定める耐用年限の三分の二を経過しているもの又は災害その他の理由によりこれと同程度の機能の低下を生じているものを除く。)の建築面積の合計が、当該区域内にあるすべての建物の建築面積の合計の三分の一以下であること(二号)、第三に当該区域に十分な公共施設がないこと、土地利用が細分化されていることなどにより当該区域内の土地の利用状況が著しく不健全であること(三号)、第四に当該区域内の土地の高度利用を図ることが当該都市の機能の更新に貢献すること(四号)という要件を充たす区域でなければならないとされている。

これを本件についてみると、まず、一号の要件については、高度利用地区の計画についても同時に手続を進め、決定権者たる横浜市において都市計画決定をなしていること、次に、二号の要件については、昭和五二年一〇月二四日現在で(以下基準日は同じ。)当該区域内で対象とされる耐火建築物の建築面積の合計は二〇一五・五九平方メートルで、当該区域内の建築物の建築面積の合計である三六九二・七九平方メートルの五四・五八パーセントを占めるが、しかしその耐火建築物のうち、物理的な耐震性、安全性が低下し、かつ、経済的機能も低下していて、二号かつこ書きの「災害その他の理由によりこれと同程度の機能の低下を生じているもの」とみなされるものの建築面積の合計が八〇一・三八平方メートルあり、これを前記の耐火建築物の建築面積の合計から差し引くと一二一四・二一平方メートルとなり、区域内の建築物の面積の合計の三二・八八パーセントであり三分の一以下となるので、二号の要件を充たしている。また、三号の要件については、当該区域内の公共施設としては車両等の輻奏する縦横各一本の区画街路があるにすぎず、土地利用の細分化についても、当該区域内の宅地のうち一時使用を除いた建築物の存する宅地は二三区画、面積として四一七三・五〇平方メートルで、その平均は一八一・四六平方メートルであり、宅地の全体面積である六八六三・六九平方メートルの約六〇・八〇パーセントにすぎない。この数字を、高島屋、ジヨイナス、ニチイ等が建ち並び全国でも有数の商業地域である横浜駅西口の隣接周辺地区の土地利用の現況と比べれば、当該区域内の土地利用がいかに細分化されているかあえていうまでもない。更に、このことを建ぺい率、容積率によつてみると、当該区域を含む横浜駅西口周辺地区は、用途上商業地域に指定されており、容積率は土地の高度利用を図るため横浜市内で最高の八〇〇パーセント、建ぺい率は八〇パーセントに指定されているのであるが、当該区域の建築物の現況容積率は一九二パーセント、建ぺい率は五四パーセントと著しく低く、このことからも当該区域内の土地利用が極めて細分化しており、土地利用状況が著しく不健全であることがわかる。最後に、四号の要件についてであるが、上述のとおり、当該区域内の土地利用が著しく不健全であることに照せば、土地の高度利用をはかることが要請されるところであり、そのことが、とりわけ横浜市の中心に位置し、国鉄、京浜急行、東京急行、相模鉄道、横浜市営地下鉄の各駅が集中し(本件地区は国鉄、相模鉄道、地下鉄の出口に位置する。)、また全国でも有数の商業地域である当該区域の都市機能を高め、ひいては横浜市の都市機能の更新に貢献することはいうまでもない。

以上のとおり、本件事業の都市計画に定められた施行区域は、再開発法三条に定められた各要件に該当する区域であり、横浜市においてその土地の区域について本件事業の都市計画案を作成し、これに基づいて決定権者たる被告が、次項に述べる手続に従つてなした本件決定には何らの違法もない。

(二) 被告が本件決定を行うまでにとつた手続は次のとおりである。すなわち、被告は、右のとおり計画案の作成を担当した横浜市が昭和五二年八月三〇日付で都市計画決定の申請書を提出したことを受けて知事原案を定め、その後運用に基づき認可権者である建設大臣との事前の協議を了したのち、都計法一八条一項の規定により横浜市の意見をきき、同年一〇月四日には同法一六条の趣旨に則り説明会を横浜市主催で開催し、また同年一〇月七日からは同法一七条一項の規定による公告と二週間の縦覧を行い、縦覧終了後の同年一一月七日には同法一八条一項に基づいて神奈川県都市計画地方審議会に計画案を付議するとともに、同条二項に基づいて縦覧期間中県知事あてに提出された意見書の要旨を提出した。続いて、神奈川県都市計画地方審議会から原案相当と可決された旨の答申を受けた被告は、同年一一月一五日付で同法一八条三項に基づく認可申請を建設大臣あてなし、同年一一月一八日付で認可を得たので、同年一二月二日に同法一八条一項に基づき本件決定をなし、同日その旨告示した。この間、行政手続を進めるうえで何ら瑕疵、違法はない。

なお、市街地再開発事業に関する都市計画決定は、事業の枠組を定めるものであつて、都市計画決定の段階では関係権利者の同意が前提となるものではなく、都計法にも同意を必要とする旨の規定はないのであるから、本件決定をするにあたり再開発法一四条の定める要件を欠いていたとしても何ら違法ではない。

第三証拠<省略>

理由

一  請求原因1(本件決定の存在とその概要)の事実は当事者間に争いがない。

二  本案の判断に先だち、本件決定が抗告訴訟の対象となる行政庁の処分に該当するかどうかを検討することとする。

1  一般に、抗告訴訟の対象となる行政庁の処分とは、行政庁の行為であつてそれにより特定の者の権利義務に対して直接具体的な変動を及ぼす性質を有するものをいうと解するのが相当である。したがつて、行政庁の行為であつても、いわゆる一般処分すなわち具体的事実に関し不特定多数の者を対象とする一の具体的な命令を内容とする行政庁の行為は、行政処分に該当しないこと明らかである。また、一連の手続を構成する行政庁の行為は、それぞれの行為につき法律上明文をもつて抗告訴訟の対象となることが定められている場合は格別、これが定められていない場合においては、前提となる行為自体が特定の者の権利義務に対して直接具体的な変動を及ぼす場合には、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたると解して、その権利の救済をはかる必要があるが、そうでない場合には特定の者の権利義務に対して直接具体的な変動を及ぼす後行行為の段階において前提となる先行行為の違法を争えば足りるのであるから、前提となる行為自体に処分性を認める必要も理由もないと解するのが相当である。

そうすると、本件決定が抗告訴訟の対象となる行政処分に該当するかどうかは、本件決定が、特定の者の権利義務に対して直接具体的な変動を及ぼす性質を有する行政行為であるかどうかによつて決せられるということになる。

2(一)  再開発法に基づく市街地再開発事業とは、市街地の土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図るため、都計法及び再開発法で定めるところに従つて行われる建築物及び建築敷地の整備並びに公共施設の整備に関する事業並びにこれに附帯する事業をいう(再開発法二条一号)ものである。

(二)  本件事業は、地元権利者をその構成員とする組合によつて施行することが予定されている(このことは当事者間に争いがない。)ところ、組合が都計法一二条一項四号及び再開発法六条一項に基づき施行する都市計画事業は第一種市街地再開発事業(同法二条の二第二項)であつて、その手続の概要は、次のとおりである。

(1) まず、都道府県知事は、関係自治体の意見聴取ないし協議、都市計画地方審議会の議などを経て、建設大臣の認可を受けたうえで都市計画の決定をして告示する(都計法一五条一項四号、一二条二項、一八条、二〇条一項、同法施行令七条)。これにより市街地再開発事業の種類、名称、施行区域及びその面積が定められる。

以上の都市計画決定までの手続は、施行主体の如何によつて異なるものではない。

(2) 都市計画決定の告示がなされると、施行区域内において建築物の建築をしようとする者は、原則として、建設省令で定めるところにより都道府県知事の許可を受けなければならないという制約を受けることになる(都計法五三条。なお、同法五四条は、右の許可の基準を定めている。)。

(3) 次に、再開発事業の施行区域内の宅地について所有権又は借地権を有する者が、五人以上共同して定款及び事業計画を定め、再開発事業の施行地区となるべき区域内の宅地について所有権を有する者及び借地権を有する者の三分の二以上の同意を得て組合設立の認可の申請をし、都道府県知事の認可を受けて組合を設立し、都道府県知事は設立の認可をしたことを公告する(同法一一条一項、三項、一四条、一八条、一九条一項)。

(4) 組合設立認可の公告がなされると、組合はその成立又は定款若しくは事業計画をもつて第三者に対抗することができるようになり、同時に事業の施行の障害となるおそれがある土地の形質の変更若しくは建築物その他の工作物の新築、改築若しくは増築などの行為をするには都道府県知事の許可を要することになる(同法一九条三項、六六条)。

(5) その後に、組合は権利変換計画を定め、総会等の議決、審査委員の同意を経たうえ、都道府県知事の認可を受けて右権利変換計画を公衆の縦覧に供する旨公告し、関係権利者に関係事項を書面で通知する(同法七二条、八三条、三〇条、八四条、八六条)。権利変換計画には、配置設計、変換後に施行区域内の権利者に与えられる権利内容、権利変換期日等権利変換の具体的な内容が定められ、権利変換期日において施行区域内の土地建物に対する権利は権利変換計画に定められたように変換され、権利変換はその効力を生じる(同法七三条、八七条)。

(6) 組合は、その後遅滞なく権利変換の登記を申請し、施行区域内の土地の明渡を求め、工事を実施、完了させてその旨を公告し、完成させた施設建築物の登記の申請をしたうえで清算手続を了し、ここに再開発事業は終了する(同法九〇条、九六条ないし九八条、一〇〇条、一〇一条、一〇四条)。

3  まず、本件決定のような市街地再開発事業に関する都市計画決定は、右にみたように市街地再開発事業の種類、名称、施行区域及びその面積(都計法一二条二項、同法施行令七条)を定めるものであり、これは、以後進展する再開発事業の手続の基本的な指針、枠組を定めるものにすぎず、都市計画決定自体は施行区域内の土地建物の所有者又は賃借権者等の利害関係人の法的地位に対しいかなる変動を及ぼすものでもないのである。なるほど、市街地再開発事業に関する都市計画決定が再開発事業の端緒とはなるものの、再開発法は組合を施行者とする第一種市街地再開発事業の一連の手続を前示のように定めているのであつて、原告らの主張する施行区域内の宅地等の所有権又は借地権についてその権利の得喪変更の効力が生じ、権利義務に具体的な変動が及ぶのは、右2(5)の組合による権利変換計画の公告及び関係権利者への通知によるものであることが明らかである。そうすると、本件決定は、行政庁の行為ではあるが、一般的、抽象的性質を有するもので、地域に限定はあるものの不特定多数の者を対象とするものであつて、特定の者を対象とし、その権利義務に対して具体的な変動を及ぼす性質のものではないというべきである。

もつとも、右2(2)にみたように、都市計画決定の告示がなされると、施行区域内において建築物の建築をしようとする者は、原則として、建設省令で定めるところにより都道府県知事の許可を受けなければならないとの制約を受けることになるが、都市計画決定の告示に伴うこのような法的効果は、都市計画の実現と再開発事業の円滑な遂行を確保するために特に都計法によつて付与された附随的効果であるから、右のような法的効果を生ずることを理由として、本件決定が特定の者の権利義務に対して直接具体的な変動を及ぼすものということはできない。そして、このように解したとしても、都市計画決定施行区域内に建築物の建築をしようとする者は、都計法五三条一項の建築行為の許可の申請に対する不許可処分が行われた場合に、右不許可処分に対する抗告訴訟の中で都市計画決定の瑕疵を主張することができると解されるのであるから、救済手段を欠くものとはいえない。

なお、原告らは、横浜市が本件決定のなされる以前から将来本件決定がなされ建築行為の制限が生ずることを理由として、行政指導により本件決定施行区域内における原告らの建築確認申請を断念させており、このような事情に照らせば本件決定は原告らの利益を具体的かつ現実的に制限しており行政処分に該当する旨主張するようである。しかしながら、仮に横浜市によるそのような行政指導がなされたことがあつたとしても、そのような行政指導を要求する根拠が都計法にはもちろん再開発法にも存しないことは明らかであり、行政指導自体を争訟の対象とするのであれば格別、被告と異なる行政機関である横浜市により都計法、再開発法等の諸法規と直接関連のない行政指導がなされたからといつて、本件決定が原告らの権利、利益を具体的かつ現実的に制限していると帰結することは到底できない、というべきである。したがつて、原告らの右の主張は理由がない。

また、原告らは、本件のように都市計画決定自体の違法が争点となる事案であれば、その告示のときに既に訴訟的解決にふさわしく成熟しており、処分性があると主張する。しかしながら、原告らの主張によれば、本来一義的に判断されるべき行政庁の行為の法的性質、したがつて処分性の有無が当事者の主張の内容により左右されてしまうことになりかねず、かような見解を採用しえないこと多言を要しない。本件決定のように一連の手続を構成する行政庁の行為について、これが行政処分にあたるかどうかは、当該行為自体が特定の者の権利義務に対して直接具体的な変動を及ぼすかどうかによつて決すべきものであるところ、本件決定自体が特定の者の権利義務に対して直接具体的な変動を及ぼすものではないこと前説示のとおりである。そして、右のように解したとしても、特定の者の権利義務に対して直接具体的な変動を及ぼす行為、本件についていえば権利変換計画の公告及び関係権利者への通知が行われた段階において、これを争う訴訟の中で前提となる本件決定の瑕疵を主張することができるのはもちろんであるから、本件決定に対する救済手段を欠くものではない。

更に、原告らは、都市計画決定に伴う建築規制により施行区域内の建築物の建築について都計法五三条一項の許可申請に対する不許可処分がなされた場合に、右建築規制による権利侵害を主張しようとする者はその不許可処分の取消しを求めれば足りるとする被告の見解は、多額の費用を支出して設計図書を準備し形式的に確認申請、不許可処分(但し、この点は、後述するように、正確には、都計法五三条一項の許可申請及びこれに対する不許可処分のことを指称しているものとみるべきであろう。)という手続をふまねば権利侵害について訴訟による救済を求めえないということにほかならず、国民に無用の負担を強いるものであつて不当である旨主張する。なるほど、都計法五三条一項の許可の申請をするには、同法施行規則三九条一項所定の様式の申請書を提出して行うものとされ、更にこの申請書には同条二項所定の図書を添付することが要求されている。しかしながら、都計法五三条一項の許可の申請に対する都道府県知事の許可の基準については同法五四条が定めているところであり、同条の定める基準によれば、原告らの主張する設計に多額の費用を要するような大規模な建築物が許可の対象となりえないことは明白である。したがつて、原告らにおいて、都計法五三条一項の許可申請に対する不許可処分を受けたうえで、これに対する抗告訴訟の中で本件決定の無効・違法を主張しようとするには、必ずしも原告らが主張するような多額の費用を要する設計図書を準備する必要はなく、都計法施行規則三九条一項所定の申請書のみ、あるいはこれと添付図書を要求している同条二項の規定を最低限充足し、かつ同法五四条に抵触する極く簡単な図書を提出すれば足りると考えられるから、不許可処分を争うために多額の費用を要するという原告らの右主張は法規の誤解に基づくものか、またはその前提を欠くものであつて、失当である。

仮に原告らが主張するように、市街地再開発事業の都市計画区域内で建築物を建築するには、都計法五三条一項の許可及び建築確認の双方が同時に必要であり、その申請のためには多額の費用を要するとしても、これは市街地再開発事業の都市計画区域内で建築物を建築しようとする者が、ひとしく負担しなければならない支出ないし負担であつて、都計法五三条一項の許可申請に対する不許可処分及び建築確認申請に対する適合しない旨の処分が、市街地再開発事業の都市計画決定の無効ないし違法を理由に取り消されて、建築確認がなされる場合には、右支出ないし負担は何ら無用な出捐とはならないものであるから、都計法五三条一項の許可申請及び建築確認申請に多額の費用の支出ないし負担を伴うことをもつて市街地再開発事業の都市計画決定に処分性を認める根拠とすることはできない。したがつて原告らの右主張も理由がない。

最後に、原告らは、本件決定に処分性がなく、これに対する抗告訴訟が許されないとすると、実現不可能な都市計画による不必要な建築規制が無制限に継続していくことになり、施行地区の権利者の保護に著しく欠けることが明らかであるから、本件決定に処分性を認めるべきであると主張する。しかしながら、都計法二一条一項は、都市計画を変更する必要が生じたときは、都市計画決定権者において、遅滞なく、当該都市計画決定を変更しなければならない旨規定しているのであるから、本件決定にその取消しも含む変更の必要が生じた場合には、被告において、遅滞なく、本件決定を変更する措置がとられることになるわけである。そうだとすれば、原告らの主張する実現不可能な都市計画による不必要な建築規制が無制限に継続するというような事態を、都計法は予想していないというべきである。仮に、本件決定がなされたままで、相当の期間放置されることがあるとしても、本件決定が前示のような性質のものであることにかんがみれば、右決定の段階で、その取消又は無効確認を求める訴の提起を許さなければ、利害関係者の権利保護に欠けるところがあるとはいい難い(最高裁判所昭和三七年(オ)第一二二号、同四一年二月二三日大法廷判決民集二〇巻二号二七一頁参照)。したがつて、原告らの右の主張も理由がない。

4  そうすると、本件決定は、抗告訴訟の対象となる行政庁の処分にはあたらないというべきである。

三  よつて、本訴請求は、いずれも不適法な訴と認められるから、これを却下することとし、訴訟費用については、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文により、原告らの負担とし、主文のとおり判決する。

(裁判官 小川正澄 志田洋 清水節)

別紙<省略>

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